市場の風を読む
市場の風を読む
Morgan Stanley
モルガン・スタンレーが配信する金融ポッドキャスト「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)では、マーケットに影響を与える様々な事象について当社のソートリーダーによる考察をお届けします。
投資家が見過ごしているかもしれない市場の変化
株価の上昇がほかのセクターにも広がっている背景と、投資家はポジションを素早く構築すべきだ――弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンがそう考える理由を説明します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、株式市場のけん引役が代わりつつあることについてお話しします。このエピソードは6月30日にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。何が起きているかがはっきり見えているのに、投資家はまだそれを十分に認識していません。市場では、相場のけん引役が交代しつつあります。そしていつものように、交代しつつあることを誰もが認めるころには、容易に得られる利益を誰かがもう手に入れてしまっていることでしょう。今年に入って弊社とほかの市場参加者との間に生じた見解の違いのうち、最も重要だったのは、景気と企業業績の両方において弊社の見通しが市場コンセンサスよりもかなり強気であることでした。弊社の見解の土台になったアイデアは、いずれもシンプルながらも強力でした。3年に及んだローリング・リセッションの後ゆえに変化率が大きくなりやすかったこと、むだのない引き締まったコスト構造、鬱積した需要の存在、投資優遇措置や減税による財政支援、銀行業の規制緩和、そして金融環境が流動性供給チャネルを通じて景気をますます下支えするようになったこと、などがその主なところです。     こうした要因が重なったことから、景気循環の典型的な初期段階が始まる体制が整ったように見えたのです。むだのない引き締まったコスト構造を有する企業で売上高が再び増加に転じれば、強力な営業レバレッジがはたらいてトレンドを優に上回る増益が実現します。いま起きているのはまさにそれです。S&P1500種株価指数の構成銘柄の増益率を高い順に並べてみると、そのメジアン(中央値)にあたる企業の増益率は2桁で、コロナ禍後のブーム以降で最も高い伸びであることが分かります。売上高の増加傾向も回復しており、メジアンに当たる企業の売上高も7%増えています。多くの投資家がまだ気づいていないところで「ローリング・リカバリー」が姿を現しているのです。今年の大半の期間、特にここ数ヵ月の間、ほとんどの投資家はこの話を聞きたがりませんでした。イラン紛争で原油価格が急騰しましたし、利下げ期待は利上げ予想に転じました。こうした向かい風に直面した投資家はAI関連銘柄に、特に半導体やメモリーの関連銘柄の売買に雪崩を打って舞い戻りました。たしかに、半導体関連企業の業績見通し上方修正には目を見張るものがあります。売買の対象を元に戻すのは理にかなった動きでした。しかし、最も多く所有され、最も好まれ、かつ市場で最も目立つ分野になってしまうと、市場を良い意味で驚かせることは難しくなってしまいます。今はちょうどその状況にある、と私はみています。ハイパースケーラーの株価がアンダーパフォームし始めましたが、これはAI設備投資ブームの主要な受益者である半導体関連銘柄にとって、早期警戒警報であるのかもしれません。その業績見通し修正の広がり方は、過去の極端な状況をも上回るほどです。繰り返しになりますが、これはAIサイクルの終わりを意味するものではありません。しかし、変化率がピークに達しつつある可能性を意味しています。また、商いを伴いながらも株価のモメンタムが弱まり始めるときには、大幅な下落に至る場合があります。さらに、市場のほかの部分が一息つけるようになる場合もあります。端的に言えば、売買のすそ野が再び広がることになるのです!均等型指数や小型株指数が再びアウトパフォームしています。それ以上に重要なのは弊社が推奨してきたグループ――一般消費財、運輸、地方銀行――が、投資家のポジションや心理がまだ中立からネガティブにとどまっているにもかかわらず、すでにここ6週間で相対的な強さを見せ始めていることです。株価の動きが良くなってきた、業績も改善しているが投資家はまだ懐疑的――これこそ私好みの組み合わせにほかなりません。私が消費者の動向について比較的強気である理由の一つは、以前から原油について比較的弱気であることに求められます。この見方は、米国とイランのグランド・ディール次第で変わるものではありませんでした。取引がなされたことはたしかに追い風になりましたが、シグナルはすでに出ていたのです。北海ブレント原油とウエストテキサス・インターミディエート(WTI)のスプレッドが縮小し、紛争が始まったその日からエネルギー株はアンダーパフォームし始めました。報道が裏付ける前から、市場は私たちに何かを伝えていたのです。より長期的に言えば、この紛争は世界に警告を発しているのだと私はみています。ホルムズ海峡周辺の隘路(あいろ)は解消しなければならない、という警告です。世界はこのリスクをもう容認しません。新たなルート、新たな供給源そして新たなエネルギー戦略がいずれ姿を現すでしょう。必要は発明の母と言いますし、私はこの世界の適応力を過小評価していません。そして、石油問題の背景のうち比較的問題の少ない部分は、株式売買のすそ野を広げるのに寄与します。FRBも同じです。少なくとも金利については寄与すると言えます。6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)は2つのことを告げていました。ひとつは、フォワード・ガイダンスが今後縮小されるということ。もうひとつは、FRBの今の反応関数は明らかにこれまでよりもインフレを重視しているということです。私自身は、FRBはエネルギー価格の下落、関税関連のインフレのピーク越え、サービス業と住宅のインフレ封じ込めという3点を受けて年内の利上げを回避し、政策金利の据え置きを続けるとみています。もしその通りになれば、株式市場にとっては実質金利が想定を下回るポジティブ・サプライズとなり、株価上昇のすそ野を広げる追い風のひとつになる可能性が出てきます。この点で最も注意すべき変数は流動性です。足元では実体経済が設備投資のためにより多くの資本を必要とし、市場は株式やクレジットの供給増加に対応しているわけですが、新議長の率いるFRBが金融機関のバランスシートを以前ほど予防的に下支えする公算は小さいでしょう。これこそ当面のリアルなリスクです。人気を博しているモメンタム・トレードにとっては特にそうです。まとめましょう。来月の株式市場は変動が大きく、指数レベルでは弱く見える場面もあるかもしれませんが、その背後に隠されたメッセージは改善しています。業績拡大のすそ野が広がりつつあり、原油価格は下落しています。変化はすでに始まっており、参加者の多いモメンタム・トレードがぐらつく一方で、ファンドなどの保有比率がベンチマークのそれよりも低い銘柄が市場をリードし始めています。投資家は、こうした動きがもっと確実になるまで待つこともできますが、そうした動きが明白になって株価にフルに織り込まれる前にポジションを組み替えることもできるでしょう。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。
Jun 30
9 min
より静かなFRBが市場にもたらすもの
ケビン・ウォーシュ氏は、FRB議長として初めて臨んだ会合で、ガイダンスの提示に慎重な姿勢を示しました。弊社債券リサーチ・グローバル責任者のアンドリュー・シーツが、この新たなアプローチがもたらし得る影響について考察します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日のエピソードでは、弊社債券リサーチ・グローバル責任者のアンドリュー・シーツが、FRBが市場の想定ほど動かない可能性がある理由、そしてそれでもボラティリティが高まる可能性がある理由についてお話しします。このエピソードは6月24日にロンドンにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。先週、米連邦準備制度理事会、FRBは、新議長ケビン・ウォーシュ氏の下で初めてとなる会合を開きました。内容は期待を裏切らないものでした。FRBの経済見通しでは、前回3月時点と比べてインフレ見通しが大幅に引き上げられ、それに伴い、利上げの根拠もはるかに強まりました。場合によっては複数回の利上げもあり得る、という内容です。経済に対する見方や政策判断の理由を示すFRB声明も大きく変更され、同時にかなり簡潔なものになりました。弊社では、FRBが今回の会合で示唆した利上げを最終的に実行するとは考えておらず、今年は政策金利を据え置く選択をするとみています。ただし、FRBが据え置くというシナリオであっても、ボラティリティの上昇につながる可能性があると考えています。この一見矛盾しているように見える点について、それぞれ説明してみたいと思います。まず、FRBがインフレを懸念していることは確かです。インフレ率はかなり長い期間にわたって高止まりしています。ただ、数字を詳しく見ていくと、弊社のエコノミストは、今年の残りの期間のインフレ率について、FRBが現在見込んでいるよりも低くなると予想しています。したがって、FRBが自ら見込んでいる高いインフレ率を前提に利上げを想定するのは十分に妥当だと考えますが、弊社のより低いインフレ見通しが最終的に正しければ、FRBは異なる結論に至る可能性があるとみています。少なくとも弊社の見方では、この考えを支える材料として、FRBの一部の見通しが作成された後のここ数週間で、エネルギー価格が大きく下落したことが挙げられます。市場では、ペルシャ湾岸地域で既存の石油生産が再開されるだけでなく、イランが米国との新たな合意の下で輸出を大幅に増やす可能性があるとの見方が強まっているためです。そうなれば、米国、欧州、アジアにおける基調的なインフレ圧力の一因が大きく和らぐことになります。インフレ率が懸念されていたほど高くならないとすれば、FRBにとって最も自然な選択肢は、利上げではなく、今年は据え置きを続けることだと弊社は考えています。では、FRBが何もしないのであれば、それがいったいどのようにボラティリティを高めるのでしょうか。この問いへの弊社の答えは、FRBが「やらない」もう一つのことにあります。それは、今後の金融政策の方向性について、これまでほど多くの情報を提供しないということです。実際、金融危機以降、FRBはしばしば、いわゆるフォワードガイダンスを積極的に示し、将来いつ、どのように政策を変更する可能性があるのかについて、かなり詳しく説明してきました。支持する立場からは、これはサプライズを避け、政策の波及を円滑にするための手段と見なされてきました。一方で批判的な立場からは、政策運営を縛るものであり、市場に誤った安心感を与えかねないものと見られてきました。新FRB議長のケビン・ウォーシュ氏は、こうした批判派の一人であり、フォワードガイダンスを大幅に減らすと約束しています。FRBが次に何をするかについて、これまでのように手取り足取り市場を導かなくなることは、大きな変化です。FRBのバランスシートが縮小する可能性や、インフレの行方、さらにAIと生産性への影響をめぐる大きな不確実性がある中で、今後は一つひとつの経済指標が、市場の見方を動かす力をより強く持つことになります。弊社のストラテジストは、こうした状況が2年金利のボラティリティ上昇に加え、為替市場のボラティリティ上昇にもつながると考えています。なお、ここ英国では、この逆説はそれほど不思議なものではありません。英国では、イングランド銀行の政策金利は12月半ば以降、同じ水準に据え置かれています。それでも、英国の2年国債利回りは100ベーシスポイントを超えるレンジで推移してきました。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。
Jun 24
6 min
ウォーシュ氏が市場の自律調整を見守る理由
FRBのケビン・ウォーシュ新議長が初めての会合に臨みました。弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイケル・ウィルソンはそれを受け、新議長の信頼性のために市場には短期的な痛みをいくらか経験してもらう必要があるかもしれないと話しています。いったいなぜなのでしょうか。このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト 市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイケル・ウィルソンが、FRB新議長についての自身の見解と、先週の連邦公開市場委員会(FOMC)の解釈の仕方についてお話しします。このエピソードは6月22日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。本日は、今年に入ってからの比較的重要なイベントのひとつだと私が考える出来事について、お話ししたいと思います。それはFRBのケビン・ウォーシュ氏が議長に就任して初めて開いた会合です。具体的に言えばウォーシュ氏は、非常に微妙な時期に自らの信頼性を確固たるものにしようとしています。景気は多くの予想よりも好調に推移していますし、インフレはまだ目標値を上回ったままです。おまけに市場は、考えるべきことを中央銀行から正確に教えてもらえる状況に慣れてしまっています。ウォーシュ氏が新議長に指名された今年2月に、私は、市場の信頼性を高めることが目標なのであればこの人事は正解だと申し上げました。当時は、貴金属が放物線を描くように値上がりしていました。私に言わせれば、これは悪いシグナルでした。政策当局は米ドルレートの無秩序な変動やインフレ問題の拡大を招くことなく好景気を本当に維持できるのか、と市場が問いかけているように思われたのです。ウォーシュ氏の指名以降、金価格に対するS&P500種株価指数の比率は40%近く上昇しています。私はこれを、市場からの強い信任の証だとみています。この比率はまた、投資家がウォーシュ氏に「疑わしきは罰せず」の原則を適用していることを示唆しています。彼ならFRBを改革できる、政策手段としてのバランスシートへの依存度を引き下げられるし、規律を強化して政権が一息つけるようにできるだろう、と投資家はみているのです。しかし、ここに落とし穴があります。信頼性の強化は、いつでも痛みを伴わずに実行できるとは限りません。実際、信頼性というものは、市場がすぐには評価しないことを行って獲得しなければなりません。そして先週の市場には、その雰囲気がいくらか漂っていました。株価は下がり、イールドカーブはベア・フラット化し、米ドル高が進み、貴金属は急落しました。私が見る限り、ウォーシュ新議長による初めてのFRB会合は失敗ではありません。むしろ良好な、必要な第一歩を踏み出せたとみています。最も際立って見えたのは、ウォーシュ氏が物価に関するマンデートを強調したことでした。FRBの主たる責任は物価を安定させることにある、労働市場のあらゆる変動を管理することではなく、あらゆるリスク資産の解約をならすことでもなく、データが出るたびに投資家にその解釈の手がかりを提供することでもない、とウォーシュ氏は非常に明確にしてみせたのです。率直に言わせてもらえれば、インフレ目標の未達が5年も続いていただけに、このメッセージの発信は遅すぎました。景気は上向きで、民間雇用統計も改善していることから、FRBにはこのメッセージのとおりに行動する余地があります。このことはFRBがすぐに利上げに踏み切るとか、年内には必ず利上げがあることを意味している、とは思いません。意味しているのは反応関数が変化したこと、そして市場はFRBがたどる道のりについての不確実性を好まないということの2点です。もう一つの大きな変化はコミュニケーションです。ウォーシュ新議長は、過度なフォワード・ガイダンスから離れていくように見受けられますし、私自身もそれは非常に健全な展開だとみています。私はもう何年も前から、FRBは市場行動の形成のみならず、投資家によるデータの解釈の仕方においても影響力を持ちすぎていると論じてきました。FRBが次に言うことを予想しようとするだけの市場であれば、FRBは市場でつく価格を独立したシグナルとはみなせなくなります。これではあべこべです。市場は新たに入ってくる情報に反応するべきであり、FRBはそうした市場の反応から学ぶべきなのです。順番が逆になってはいけません。FRBによる解釈の手がかり提供が少し減るだけでも、投資家は落ち着かなくなるかもしれません。しかし皮肉なことですが、もっと安定した状態に至るにはそうすることが必要です。短期的には、投資家は気に入らないかもしれません。しかし、システムがうまく機能するのは、市場価格が政策の操作の影響をあまり受けずに決まるときです。群衆の知恵は委員会の知恵を上回ることが多いのです。株価の当面のリスクは、利上げでもなければ不確実性でもありません。流動性です。FRBのバランスシートを使った支援はすでに縮小し始めています。準備金管理プログラム(RMP)はピーク時からおよそ75%縮小しており、米国債の買い入れも50%減らされています。それと同時に貸し出しの伸びが加速していますが、これは実体経済での資本の利用が増えているためです。この組み合わせは流動性がタイト化しつつあることを意味しており、弊社の分析によれば、この現象は7月にかけて株式市場の向かい風であり続ける恐れがあります。結論を申し上げますと、株式市場はウォーシュ氏の決意を試すかもしれません。それこそが市場の機能にほかなりません。重要な問題は、FRBが長期的な信頼性を高めるために短期的な痛みを許容するか否かです。私自身は、FRBはまさにそれをやろうとするとみています。ただしそれは、資金調達市場、クレジット市場、あるいは債券のボラティリティのせいで、流動性の供給を増やしたり金融を再度緩和したりせざるを得なくなるまでの話です。したがって株式市場では当面、好業績主導の次の上昇局面が始まるまでは、株価の変動が大きくなったり、場合によっては株価の調整があったりすることも予想されます。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。
Jun 22
8 min
AIのチップフレーションは政策で解決できるか
AIによるメモリー需要の高まりにより、半導体はインフレ要因となっています。弊社米国公共政策ストラテジストのアリアナ・サルバトーレが、その圧力を和らげるために政策当局が何をできるのかを考察します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日のエピソードでは、弊社米国公共政策ストラテジストのアリアナ・サルバトーレが、チップフレーションと、メモリーのボトルネックに対応するために使える政策手段、そして使えない政策手段について解説します。このエピソードは6月17日にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。先週、私の同僚であるショーン・キムが、チップフレーションとメモリー価格の急騰についてお話ししました。本日は、政策当局がこれに対して何ができて、何ができないのかを掘り下げます。リスナーの皆さんもご存じのように、AIインフラはメモリーチップに依存しているため、メモリーチップはますます戦略的な資源になっています。そして、ある資源が戦略的な意味を持つようになると、政府が関与する傾向があります。課題は、政策は一定の助けにはなっても、おそらくこの問題を短期間に解決することはできない、という点です。その理由は3つあります。第1に、多くの米国の政策手段はいずれも時間がかかります。直接補助金、税額控除、調達保証、許認可の迅速化はいずれも、新たな製造工場、パッケージング施設、検査能力を支えることができます。しかし、メモリー供給が一夜にして現れるわけではありません。こうした新たな能力は、建設し、設備を導入し、認定を受け、生産を立ち上げる必要があり、そのプロセスには何年もかかる可能性があります。第2に、中国は従来型メモリー市場で一定の供給を増やせるかもしれませんが、AI需要によって生じたより大きな需給ギャップを埋めるには十分ではありません。これは、最先端AIシステムにとってより戦略的な種類のメモリーである高帯域幅メモリーについて、特に当てはまります。この分野の供給はなお高度に集中しており、技術的にも複雑で、規模拡大が難しい状況です。第3に、弊社の基本シナリオでは、米国の政策は緩和されるのではなく、むしろより制限的なままであるとみています。この技術の戦略的重要性を踏まえると、輸出規制が広範に緩和されるとは考えていません。むしろ、政策当局は短期的な価格抑制よりも、サプライチェーンの強靱性、信頼できる生産能力、そして地政学的リスクの低減を引き続き優先する可能性が高いと考えています。ここで政策の観点からは、メモリーを2つのカテゴリーに分けて考えることが重要だと弊社はみています。1つ目は、AI向けの戦略的メモリー、すなわち高帯域幅メモリーと先端DRAMです。これは、最先端AIシステムを可能にするメモリーです。そのため、この分野の政策は、戦略的能力を守り、地政学的な脆弱性を抑え、米国および同盟国における信頼できる供給を拡大することに重点を置く可能性が高いと考えています。2つ目のカテゴリーは、コモディティまたはレガシーメモリーです。これは、自動車、産業システム、民生用電子機器、その他の最先端ではない用途で使われるメモリーと考えることができます。この分野では、政策当局は、差別化されたライセンス供与や重要セクターへの的を絞った支援など、より柔軟な選択肢を検討し得るとみています。ただし、それでも制約は実務的なものです。すなわち、許認可、人材、装置、認定サイクル、そして生産リードタイムです。中国はもう1つの大きな変数です。中国メーカーは従来型DRAMとNANDで生産を拡大しています。一部の消費者向け用途では、AI関連需要によって締め出されてきた買い手にとって、この供給が逃がし弁のような役割を果たす可能性があります。それでもなお、限界はあります。政策面で支援があったとしても、中国メーカーは歩留まりと技術の面でギャップに直面しています。そして、中国だけで高帯域幅メモリーのボトルネックを解消することはできません。規制環境もこの点を裏付けています。一部の中国メモリーメーカーは、引き続き米国の制限措置、あるいは一段と厳しい監視の対象となっています。最先端のリソグラフィー装置へのアクセスも、依然として厳しい上限となっています。そのアクセスがなければ、最先端メモリーの規模を拡大することは、はるかに難しくなります。したがって、結論はこうです。政策はチップフレーションを和らげることはできますが、短期間で終わらせる可能性は低いでしょう。AI向けの戦略的メモリーについては、政策当局は制限を緩めるよりも、アクセスを守り、同盟国との連携を深め、信頼できる生産能力を促す可能性が高いとみています。コモディティメモリーについては、的を絞った柔軟性をある程度持たせる余地があるかもしれません。ただしもちろん、地政学とタイミングは依然として重要です。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。
Jun 17
7 min
株式の調整後に見える強気シナリオ
弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、最近の株式調整は反転というよりもリセットである可能性が高い理由と、投資家が次の機会を見いだせる場所について解説します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日のエピソードでは、弊社最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、過去数週間の株式調整局面で注目すべき投資機会についてお話しします。このエピソードは6月15日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。市場が方向性や主導役を変えるのは、ストーリーが崩れたからではなく、ストーリーがあまりに速く進展したため、それを消化する時間が必要になるから、ということがあります。過去数週間、株式市場は3月の重要な底打ち以降で最大の調整を経験しました。ただ、私はこれを強気相場の終わりとは見ていません。今年、株価を押し上げてきた2つの主要な要因、すなわち業績修正と流動性が、持続不可能なペースで加速した後の一服だと捉えています。私の見方では、市場が疑問視しているのは業績主導の強気相場そのものというよりも、業績見通しが上方修正されるスピードです。こうした修正は半導体のような主導セクターで特に力強く、その半導体が最も大きく調整しました。業績修正の幅が70%を超えてくると、改善ペース、つまり二次微分がそろそろ鈍化するのではないかと考えるのは自然です。これは業績予想が下方修正されるという意味ではありません。むしろ、改善の勢いがピークに達しつつある可能性が高いということです。市場では、成長の二次微分が常に重要になります。こうした減速は、暴落ではなく調整を生みます。この違いは重要です。業績修正の幅は極端な水準から一服したり、反転したりするかもしれませんが、今後1年の業績予想は、年内を通じて、そして2027年の数字に向けてロールフォワードするにつれて、なお上昇する可能性が高いと見ています。だからこそ、今後数週間は不安定な相場展開が続くとしても、弊社の年末のS&P 500目標値8,000に引き続き確信を持っています。業績ストーリーが崩れないまま市場が調整することはあり得ます。実際、健全な強気相場がリセットする時には、まさにそうなることがよくあります。今回の調整のもう一つの要素は流動性です。今年前半、金融安定を取り戻す手段として、流動性は金融システム内に力強く流れ込んでいました。FRBのリザーブ・マネジメント・プログラム、銀行の資本要件の緩和、そして財務省の国債買い戻しを合わせると、実質的に5,000億ドルを超える流動性が供給されました。しかし、そのペースはいま鈍化しています。リザーブ・マネジメント・プログラムは4月の月およそ400億ドルから、現在はおよそ100億ドルへ減額しています。一方で、財務省による買い戻しも3月と4月の高水準から減速しました。この変化率の鈍化は、とりわけ潤沢な流動性に支えられて活発に行われてきたモメンタム取引にとって、限界的には重要です。こうしたモメンタムの調整には注目してください。なぜなら、それはしばしば相場の主導役の交代をもたらし、そこに本当の投資機会があるからです。今年はすでに、貴金属・ベースメタルからレアアース、エネルギー、そして最終的には半導体へと、いくつかの主導役交代が見られました。今、市場は再び広がりを見せる準備が整いつつあるのではないかと考えています。去年 昨年末や今年最初の6週間に見られた動きに似ています。重要なのは、弊社が選好している一般消費財、運輸、地方銀行の各セクターが、過去1カ月でいずれも10%を超えて上昇している一方、S&P 500は小幅に下落していることです。それでも、これらの分野に対するセンチメントはなお低調です。これはまさに私が好む環境です。ファンダメンタルズは改善し、相対的な値動きも良くなっているにもかかわらず、投資家はなお懐疑的なのです。この広がりを後押ししそうな要素がもう一つあります。低クオリティの景気循環株の重しとなってきたマクロ変数、すなわち金利、原油、ドルは、いずれもピークを迎えつつある可能性があります。これは、昨夜発表されたホルムズ海峡の再開に向けた合意ともよく整合します。原油価格への圧力が和らぎ、債券市場が現在織り込んでいるFRBの利上げを巻き戻せば、金利敏感セクターには最近のアウトパフォームをさらに伸ばす余地があるはずです。最後に、今週のFRB会合も重要です。ケビン・ウォーシュにとって議長として初めての会合だからです。私は政策金利の決定そのものよりも、債券市場がどのように反応するかに注目します。私にとって重要な目安はこれまでと同じです。10年債利回りは4.5%、そして債券のボラティリティと資金調達市場のストレスは落ち着いた状態を維持する必要があります。イラン合意が維持されるなら、FRBは金利に関してタカ派姿勢をやや弱めることができると思います。ただし、流動性をさらに追加するという積極的な方針転換までは見込んでいません。結論として、市場は成長加速と流動性の変化率がピークに達したことを消化してきました。しかし、それはサイクルの終わりとはほど遠いものです。業績主導の強気相場はなお崩れていませんが、主導役は変わりつつあるのかもしれません。いつものように、最良の機会は、投資家がまだ信じていない場所に隠れている可能性があります。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。
Jun 15
7 min
インフレはこの先、落ち着くのか
このところインフレが加速していますが、今後の見通しは悪くないかもしれないとモルガン・スタンレーではみています。なぜそのような、ほかとは異なる見方になるのか、弊社債券リサーチ・グローバル責任者のアンドリュー・シーツがご説明します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト  市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は弊社債券リサーチ・グローバル責任者のアンドリュー・シーツが、インフレはこのところ加速しているものの、今後の見通しは悪くないかもしれないと考える独自の見方についてお話しします。このエピソードは6月11日 にロンドンにて収録されたものです。 英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。今日は物価についてお話しします。何もかもがいまだにこんなに高いのは、いったいなぜなのでしょうか。 FRBには、いわゆるデュアル・マンデートというものがあり、労働市場を健全な状態に保ちつつ物価を安定させる使命を負っています。現在は、後者よりも前者のほうではるかに大きな成功を収めているという状況です。 では、良い知らせから見ていきましょう。 6月5日金曜日発表の米雇用統計は堅調で、AIやそのほかの要因で企業が従業員数を減らすのではないかという今年に入ってからの懸念が、いくらか緩和されました。失業率はわずか4.3%という歴史的な低水準にとどまっており、新規失業保険申請件数などほかの指標でも解雇の大幅な増加は示されていません。しかし、米国労働市場の成功はインフレで苦戦していることの裏返しです。FRBはインフレ率、すなわち幅広い品目の価格からなる物価全体の年間上昇率を およそ 約2%にとどめようとしています。またそうした物価の指標のなかでも、いわゆる個人消費支出(PCE)インフレ率を重視していますが、この指標は過去3ヵ月間、6ヵ月間、12ヵ月間、実を言えば過去5年間、 およそ 約2%という目標を大きく上回り続けているのです。インフレの主要指標にはもう一つ、消費者物価指数(CPI)に基づくインフレ率があります。6月10日水曜日に発表された5月の総合指数のそれは4%を超えていました。市場予想には近かったものの、FRBが望んでいる水準を大幅に上回るペースで物価が上昇していることに変わりはありません。ここでひとつのジレンマに突き当たります。まず、現在の高いインフレ率は、現在の金利水準では金融がとにかく緩和されすぎていることを示していると診断できます。企業の設備投資と企業買収は急増していますし、規制は緩和されており、米連邦政府は歳入を上回る額を支出しています。これらはすべて景気循環が拡張期にあることと符合しており、昔であれば、景気をより持続可能な速度に戻すための金利引き上げが正当化されていたでしょう。しかし、話はそれほど単純ではないかもしれません。今日見受けられるAIデータセンターへの投資急増はかなり特異なものであり、ほかの要因にはほとんど反応しないように見受けられます。実際、メモリーの価格はここ1年間で700%も上昇していますが、このデータセンター建設需要の減速にはほとんど寄与していません。発注者である大手企業は資金を潤沢に持っているうえ、将来成功するにはこのAIデータセンターの整備が必要不可欠だと考えているからです。米国の消費者もまだお金を使っています。家計の富が記録的な水準にあることが追い風になっているのかもしれません。例えば、弊社の株式リサーチの同僚たちによれば、航空旅客運賃はここ1年で25%上昇しているものの、旅客機の利用が減る兆しは見られないそうです。こうしたことから、コンピューター・メモリーや旅客航空運賃のように大幅な値上がりが目立つ品目がある一方で、住宅費や関税で打撃を受けた品目の値上がりが鈍り、総合的なインフレは年末に向けて改善することになりそうです。これは弊社モルガン・スタンレー全体の見解であり、弊社のエコノミストは今後12ヵ月間でインフレ率は最終的に低下する、しかも多くの市場関係者の予測水準よりも低くなるだろうとみています。しかし、そこには間違いなく不確実性が伴います。今月6月は、複数の中央銀行が気持ちも新たにインフレ抑制に取り組んでいるように見える月になるかもしれません。ECBは6月11日木曜日に利上げを行いましたし、日本銀行も6月15日の週に利上げに踏み切ると弊社は予想しています。FRBは緩和バイアスを削除することになるでしょう。そして、弊社はインフレが改善するとの見方を景気の基本ケースシナリオにしていますが、これは原油が近日中にホルムズ海峡を通って出荷されることを前提としてます。この前提通りにはならない可能性があります。その場合は、インフレ圧力がさらに続く事態になるかもしれません。インフレの大きな流れはまだ去っていません。弊社は、向こう12ヵ月間に債券利回りが低下して株価が上昇すると予測していますが、その主要な前提として、今年下半期にはインフレ圧力が弱まる可能性があるという、ほかの市場関係者とは異なる見通しを立てております。ですが、この見通しは現状が変化することに依存しています。それに今の時点では、インフレ率はまだ高すぎる水準にとどまっています。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。
Jun 11
7 min
アジアのAI電力確保競争
AI需要が急増するなか、弊社アジア・エネルギー・アナリストのマヤンク・マヘーシュワーリーが、現代の暮らしを支える電力、燃料、送電網、蓄電を確保するために始まった数兆ドル規模の新たな投資サイクルについて解説します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日のエピソードでは、弊社アジア・エネルギー・アナリストのマヤンク・マヘーシュワーリーが、AIの急速な成長によって、アジアでは送電網、燃料、蓄電、そして安定したエネルギー供給と発電能力における大規模なエネルギー増強が必要になっていることについてお話しします。このエピソードは6月9日にシンガポールにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。AIにメモの下書きやファイルの要約、旅行の計画、あるいは画像の生成を頼むたびに、その応答は瞬時で簡単に感じられます。しかし、その背後には極めて物理的なシステムがあります。すなわち、データセンター、電力、冷却設備、燃料、金属、送電線、貯蔵タンク、そして船舶です。エネルギーなしにAIは成り立ちません。そしてアジアでは、電力とエネルギーの必要量が今後さらに大きく膨らむ可能性があります。今まさに、エネルギー、AI、安全保障が交差し、一世代に一度あるかないかの投資サイクルへと収れんする重要な転換点を迎えています。弊社では、今後5年間でエネルギー分野への新規投資が5兆ドル以上に達するスーパーサイクルが到来するとみています。これは過去10年間に見られた水準のほぼ2倍です。しかも、これは世界全体に影響を及ぼします。アジアは世界のエネルギー需要のほぼ半分を消費している一方で、域内で生産しているのはおよそ3分の1にすぎないからです。エネルギー市場がグローバルであっても、エネルギー不安はローカルな問題です。それは電気料金、燃料不足、工場の遅延、食料供給への圧力、そして家計の負担という形で表れます。2030年までに、アジアのエネルギー使用量はおよそ38エクサジュール増える可能性があります。この増加分は、中東が現在消費している全エネルギー量にほぼ匹敵します。電力需要だけで年間およそ19兆キロワット時に達する可能性があります。これは2025年の電力使用量と比べておよそ4兆キロワット時多い水準であり、データセンター、産業活動、事業の国内回帰がその背景にあります。AIは今や、その需要拡大の一部となっています。2030年までに、データセンターはアジアで新たに増える電力需要全体のおよそ6分の1を消費する可能性があります。つまりAIは、電力システムにとって新たな大口需要として浮上しているのです。この需要に対応するには、大規模な投資サイクルが必要です。アジアの年間エネルギー投資額は、今後5年間で年間およそ1兆1,000億ドルにまで増える可能性があります。その支出の多くは、発電、送電網、蓄電、そしてそれらすべてをつなぐために必要な機器といった、電力システムそのものに向けられます。最大のボトルネックは送電網かもしれません。送電網は、いわば電力のための高速道路網です。発電所をいくら増やしても、その道路が渋滞すれば、電気は家庭や工場、データセンターに届きません。アジアの送電網向け投資需要は、2030年までにおよそ1兆ドル近くに達する可能性があります。変圧器の納期は、場合によっては数年にまで延びており、機器のサプライチェーンがいかに逼迫しているかを示しています。最も難しいのは、1日のどの時間帯でも電気を切らさずに供給し続けることです。ベースロード電源とは、24時間体制で稼働できる電力のことを指します。アジアでは、エネルギー基盤に大量の再生可能エネルギーを追加しています。しかし、この電源は太陽が照るか、風が吹くかに左右されます。だからこそ、石炭、ガス、原子力も引き続き議論の対象となっているのです。蓄電もまた、あると便利なものから不可欠なものへと変わりつつあります。バッテリーは、日中に供給量が増減する際、再生可能エネルギー由来の電力需要を平準化するのに役立ちます。世界のエネルギー貯蔵設備の導入量は、2025年のおよそ500ギガワット時から、2030年にはおよそ3,000ギガワット時へと増える可能性があります。AIを動かすために必要なのは、電力だけではありません。データセンターには電力が必要ですが、それを取り巻くシステムには、信頼できる燃料、送電網、バッテリー、金属、精製設備、貯蔵、そして海運も必要です。電気は、物理的なインフラを通じて発電され、送られ、バックアップされ、供給されなければなりません。だからこそ、このテーマには、送電網向けの銅やアルミニウム、輸送向け燃料精製や石油化学サプライチェーン、さらにはエネルギー安全保障が食料安全保障にもつながることから肥料も関わってくるのです。未来はデジタルに見えるかもしれません。しかし、それを支えるのは、はるかに物理的なものです。すなわち、アジアがここ数十年で経験した中で最大規模のエネルギー増強です。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。
Jun 9
7 min
AIメモリーの高コスト
AIによる膨大なメモリー需要のために、データセンターからスマートフォンに至るあらゆるもののコストが上昇しています。その影響は、テクノロジー業界をはるかに超えたところにまで及ぶかもしれません。弊社欧州・アジア・テクノロジー・リサーチ責任者のショーン・キムがご説明します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト  市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は弊社欧州・アジア・テクノロジー・リサーチ責任者のショーン・キムが、メモリーチップの値下がりが止まり、値上がりに転じて品薄にさえなる現象、いわゆるチップフレーションについてお話しします。このエピソードは6月8日 にロンドンにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。使っているノートパソコンが遅くなったり、スマートフォンが値上がりしていたり、クラウドサービスの利用料金が跳ね上がったりするまでは、人はメモリーチップというものの存在を無視してしまいがちです。メモリーは、いわばコンピューターの作業スペースです。この部品はコンピューターがそのとき必要とするものを何でも抱え込みます。それがウェブ検索であろうと、動画であろうと、表計算ソフトのスプレッドシートであろうと、質問に答えるAIモデルであろうと、かならずメモリーに取り込まれます。DRAMという高速なメモリーは、サーバーやPC、スマートフォンの内部に組み込まれています。NAND型フラッシュメモリーはソリッド・ステート・ドライブ(SSD)に入っている、ファイルを蓄えるメモリーです。HBMは広帯域メモリーの略称です。AIチップの真横に陣取り、大量のデータの迅速な移動を手助けする高性能メモリーです。この3種類のメモリーのうち、カギを握っているのは最後にご紹介したHBMです。なぜなら、AIが膨大な量のメモリーを要求するようになったからです。メモリーの価格はここ1年で6倍以上に急騰しており、DRAM価格が下がり続けた数十年間とは様相が一変しています。価格上昇圧力の出どころはAIインフラ整備です。DRAMの需要に占めるサーバーの割合は2023年には37%でしたが、2028年までには59%に拡大すると弊社はみています。またNAND型の需要に占めるエンタープライズSSDの割合も、18%から65%に拡大すると見込んでいます。要するに、メモリーというパイにおけるデータセンターの取り分はこれからはるかに大きくなっていくのです。AIのメモリー使用量は、どの尺度で見てもハイペースで急増しています。新しいAIチップは以前の世代の製品よりHBMを7.2倍多く使用します。AIシステム全体での使用量はおよそ65倍に増えています。AIデータセンター1棟での使用量なら、この倍数はさらに跳ね上がります。HBMの量は2020年のおよそ10テラバイトから2026年の およそ 約18ペタバイトに増えているのです。まさにケタ違いの増加ぶりです。これだけの需要がサプライチェーンに流入しているわけですが、サプライチェーンは迅速に対応できていません。メモリーの生産能力増強は製造施設の建設、作られる製品の品質確認、そして生産開始までに年単位の時間がかかります。供給の改善はスイッチを入れればすぐに実現するというものではなく、段階的なプロセスなのです。その結果、市場は2つの部分に分かれます。ひとつは、大手AI企業やクラウド事業者が長期契約を結び、代金を前払いして優先的に供給を受けられる市場。もうひとつは、PCメーカーやスマホメーカー、産業機械メーカーなど従来の買い手が、残った製品を求めて競争しなければならない市場です。こうした状況は日常的に使われる製品にも影響を及ぼします。2027年にはPC向けメモリーが15%不足すると弊社ではみています。PCの台数で言えばおよそ5800万台分の不足です。スマートフォンでも およそ 約12%不足する恐れがあります。台数で言えば およそ約1億3400万台分です。PCやスマートフォンのメーカーは価格を引き上げたり、スペックを落としたり、新製品の投入を遅らせたり、利益の減少を受け入れたりしなければならないかもしれません。金額も大変な数字になります。メモリーの市場規模は2025年の およそ約2200億ドルから2026年の およそ約8900億ドルに拡大すると弊社では見込んでいます。2026年のメモリー販売額予想は、わずか3ヵ月の間に71%も上方修正されました。メモリー販売額が2026年だけで およそ約6000億ドル増えるとみていることになります。スマートフォン、PC、サーバーのいずれの年間販売額をも上回る計算になるのです。経済全体が大規模なインフレショックに直接見舞われることはないかもしれません。弊社の試算では、直接的には、2026年の消費者物価指数(CPI)総合指数を およそ約0.1%押し上げる程度です。しかし、メモリー需要がもたらす圧力は生産者物価、企業の利益率、クラウドのコスト、設備投資計画、テクノロジー機器の更新延期などに現れつつあります。AIのおかげでメモリーは、デジタル経済の最も安価な部品から獲得競争の最も激しい資源へと変身を遂げました。今日では、ほとんどの人が気にも留めないあの小さなチップが、どのプロジェクトを実行してどれを延期するのか、そして最終的な費用はいくらになるのかを決めているのかもしれません。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。
Jun 8
7 min
新たな関税は投資家にとってどんな意味を持つのか
新たな関税の発表を受けて通商政策が再びニュースになっています。弊社公共政策リサーチ責任者のアリアナ・サルバトーレが、今回の関税は市場を混乱させる要因にはならないと思われる理由を掘り下げます。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト  「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は弊社公共政策リサーチ責任者のアリアナ・サルバトーレが、関税をめぐる最新の報道を投資家はどう消化するべきか、そうした報道は景気や市場全体の見通しにとって何を意味しうるのかについてお話しします。このエピソードは6月5日にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。関税が再び注目を集めています。米国政府は、60を超える国や地域について行った通商法301条に基づく調査を踏まえ、新たな関税を課す案を公表しました。同時に、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の交渉が本格的に始まった模様です。最近の報道では自動車に注目が集まっており、完成車と自動車部品について域内付加価値比率の基準値が引き上げられる可能性が取りざたされています。一見すると、これらの動きは通商政策における意味のある一段の強化を示唆しているようにも見えます。しかし、こうした報道はさらなる混乱を招く新しい局面の始まりではなく、既存の関税体制の継続と理解すべきだろうと弊社ではみています。通商法301条から順番に見ていきましょう。ご記憶の方もいらっしゃるでしょうが、米国政府は今年2月の連邦最高裁判所の判断を受けて、国際緊急経済権限法(IEEPA)による関税を通商法122条に基づく関税に切り替えました。しかし後者の関税は、7月末に失効する時限的な権限によるものでした。そのため、この期限が近づくにつれて政府は新たな権限による既存の体制の維持を目指すだろうと弊社ではみていました。通商法301条による調査の終結は、まさにその方向への第一歩です。言い換えれば、これは既存の政策の継続なのです。インフレが加速したり経済成長に大きなショックが加わったりしない限り、7月になっても政府は現在の関税の体制を維持するだろうと弊社では考えています。次に問題になるのはUSMCAです。今回の交渉では、域内付加価値比率の基準値引き上げが取り上げられている可能性があり、セクターレベルの混乱が生じる恐れがあります。同様に、3ヵ国すべてが既存の協定を改善しようとすることから、7月の期限到来前に意見対立がエスカレートすることもあり得ると弊社ではみています。とは言うものの、米国、メキシコ、カナダ間の貿易の長期的な提携については、弊社は依然楽観的です。協定からの一時離脱といったような下振れリスクは、構造や手続きによる制約によって限定されるとみています。また、USMCAに基づく適用除外措置(カーブアウト)が、多くの貿易相手国に対する通商法301条対象品目についても維持されると弊社ではみています。これは米国政府が数多くのセクターについて、北米内でサプライチェーン統合を維持することに価値を見出していると思われるためです。総じて言えば、最近の関税のパターンは貿易に対する限界的な圧力を高めるのではなく、弱める方向に向かっていると弊社ではみています。ここ数ヵ月は適用除外、免除、対象範囲が広い業種別関税の導入の遅れなどが散見されます。このことは、関税が川下部門のコストに及ぼす影響に米国が依然敏感であること、そして当然ながら11月の中間選挙に向けて「アフォーダビリティ(モノやサービスが手ごろな価格で購入できること)」が政治的に重要になっていることを示唆しています。こうした見方は、米国経済全体についての弊社見通しとも符合します。弊社エコノミストによれば、マクロ経済は比較的良好な状態を維持しています。経済成長率はトレンド並みの水準を保つと予想され、個人消費は減速するものの失速には至らず、エネルギー価格の上昇や政策の不確実性による景気押し下げ効果を人工知能(AI)関連の旺盛な設備投資が一部相殺するとの見立てです。インフレについてはやはり関税がからんできますが、価格転嫁の大半はすでにデータに反映されている模様です。この点も、株式市場に対する弊社の前向きな見通しと符合します。弊社のストラテジストは、プラスの営業レバレッジ、AIの導入、価格決定力の向上、そして増益のすそ野の拡大などに下支えされた力強い業績拡大局面が訪れるとみています。したがって、投資家のみな様にお届けしたいメッセージは、次のようなものになります。関税政策をめぐる議論はまだ 不透明であり かまびすしく、これに関する報道が相場を動かすヘッドライン・リスクをもたらし続けるでしょう。しかし、米国政府は現在の関税体制を、ますます混乱を招いたり貿易を抑制したりするバージョンではなく、より耐久性の高いバージョンにアップグレードする方向に動いています。通商法122条による関税は通商法301条による関税に切り替えられますが、USMCAのカーブアウトは維持され、アフォーダビリティやサプライチェーンに関するコストが高すぎる場合には関税が適宜免除され続けるでしょう。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。
Jun 5
7 min
今後数カ月にわたり原油供給の逼迫が続く可能性があるのはなぜか
弊社グローバル・コモディティ・ストラテジストのマーティン・ラッツが、ホルムズ海峡を通る原油輸送の再開が、市場の想定よりも遅く、かつ供給制約の強いものとなる可能性があるのはなぜかについて解説します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト:「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日のエピソードでは、弊社グローバル・コモディティ・ストラテジストのマーティン・ラッツが、中東の生産はどのくらいの速さで回復し得るのかについてお話しします。このエピソードは6月4日にロンドンにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。ガソリンスタンドに立ち寄るたびに、価格が目に入ってきます。給油機で目にする価格は、ここ数カ月にわたり注視してきた世界的なシステムの、いわば入り口にすぎません。タンカー、貯蔵設備、保険、海上輸送ルートのいずれも、なおホルムズ海峡の影響で制約を受けています。しかし、給油所の価格が依然として高い一方で、ブレント原油価格は実際には1バレル当たりおよそ92ドルまで下がっています。インフレ調整後で見ると、現在のブレント価格は過去20年のちょうど50パーセンタイル 付近にあります。これは、市場が供給は近い将来すっきりと回復する、と見込んでいることを示唆しています。とはいえ、混乱の規模は依然として極めて異例です。湾岸地域の原油のうち、日量およそ1,100万バレルが依然として停止したままで、紛争前のこの地域の生産量のほぼ半分に相当します。弊社は、市場がやや楽観的すぎる可能性があると考えています。現時点での弊社の基本シナリオでは、海峡を通る輸出の本格的な回復が始まるのは7月後半になってからです。しかも、その段階になっても、何かのスイッチを切り替えるように一気に正常化するわけではありません。第一に、船舶が実際に航行する意思を持つ必要があります。船主や保険会社は、その水路が安全だという確信を持たなければなりません。従来の航路に機雷が残っていれば、海峡が技術的には開いていても、処理能力を落として運用される可能性があります。このリスクを取り除くには数週間、場合によっては数カ月かかることもあります。第二に、タンカー船隊が適切な場所にいません。船舶が湾岸地域で稼働できないと、ほかの地域へ移ってしまいます。原油積み出しに必要なだけの空船タンカーを再び戻すには、時間がかかります。第三に、貯蔵能力が制約要因になります。輸出用タンクが満杯であれば、油田は再稼働できません。したがって、海上輸出への依存度が高い産油国にとって、空のタンカーは不可欠です。最後に、油田そのものも再稼働させる必要があります。閉鎖前には、湾岸地域の6つの産油国でおよそ3万6,000本の坑井が稼働していました。このうち現在、およそ1万本が停止しています。ほぼ5カ月に及ぶ生産停止の後では、このうちおよそ4,000〜5,000本の坑井が再稼働時の制約に直面する可能性があります。油層圧力が低下している可能性があり、設備は長期間停止していたことで不具合を起こすこともありますし、フローラインには清掃や安全確認が必要です。総合すると、ホルムズ海峡を通る輸送が再開してから4カ月以内に、失われた供給のおよそ75パーセントはおそらく戻るとみられます。しかし、残る25パーセントが戻るのは、2027年にかなり入ってからになる可能性があります。では、なぜ価格はもっと大きく動いていないのでしょうか。市場は今回のショックを、いくつかの緩衝材を持った状態で迎えました。在庫水準は高く、洋上在庫も多く、緊急備蓄の放出も支えとなりました。米国は、原油および石油製品の海上純輸出を、日量およそ500万バレルから900万バレルへと増やしました。同時に、中国の海上石油純輸入は、1年前の日量およそ1,300万バレルから、直近30日間では日量750万バレル強へと減少しました。しかし、こうした緩衝材は薄れつつあります。戦略備蓄の放出量は、4月から6月にかけての日量およそ250万バレルから、7月と8月には日量およそ70万バレルへと減る予定です。米国のガソリンおよびディーゼル在庫は、すでに過去5年の季節的な低水準を大きく下回っています。中国でも、4月積みから8月積みにかけて、5カ月連続で原油購入が異例に低い水準となる見通しです。ただ、そうなると、中国の買い手が9月積みの原油の購入に戻ってくる確率が高まります。通常、9月積みの購入は6月中旬から下旬に始まります。現在、原油は、まるで混乱がほぼ終わったかのように取引されています。しかし同時に、現物のシステムは、もっと時間がかかることを示しています。画面上では価格は落ち着いて見えるかもしれませんが、ボトルネックはタンカー、貯蔵タンク、坑井、そして作業員にあります。弊社のブレント原油価格見通しは、第2四半期が1バレル当たり110ドル、第3四半期がおよそ100ドルで据え置いています。さらに最近では、第4四半期の予想を95ドル、2027年第1四半期の予想を85ドルへ引き上げており、その後はいずれ1バレル当たり80ドルへ戻ると見込んでいます。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。
Jun 4
7 min
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