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弊社グローバル・チーフ・エコノミスト兼マクロ・リサーチ責任者のセス・カーペンターが、AIを労働市場へのショックではなく生産性ブームへと転換できるほど、速いスピードで経済が適応できるのかについてお話します。このエピソードを英語で聴く。 トランスクリプト 市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。本日は、弊社グローバル・チーフ・エコノミスト兼マクロ・リサーチ責任者のセス・カーペンターが、AIをめぐる誇張や不安に流されず、労働市場にどのような影響が及ぶのかを問い直します。このエピソードは5月1日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。さて、おそらく皆さんも、AIを使ってメールの下書きを作ったり、文書を要約したり、新しいテーマについて学んだり、旅行の計画を手伝ってもらったりしたことがあるでしょう。この新しい技術によって、特定の作業コストが明らかに下がっています。そして研究を見る限り、AIが大半の人間より上手にこなせる作業は数多く、しかも増えています。ただ、問題はそこではありません。私がいつも耳にするのは、「同じ生産量をより少ない労働力で実現できるなら、何百万人もの人が職を失うに違いない」という声です。ただ、その同じ理屈は、手元にある労働力をフルに使って、経済からもっと多くの生産を引き出せる、という見方にもつながります。この2つの見方の違いこそが、まさに議論の核心にあります。ここまでのところ、データからは慎重ながらも楽観できる余地があると言えます。AIの能力は急速に進歩し、普及も広がっていることが示されている一方で、労働市場の幅広い指標を見ると、驚くほど混乱は小さいままです。経済成長は底堅く推移しています。失業率も急上昇していません。むしろ、最近は小幅に低下しています。求人が急増しているわけでもなく、離職の動きも、AIの影響を受けやすい業種で体系的な弱さが広がっていることを示してはいません。また、生産性に関するデータからは、AIによるプラスの効果が出始めている可能性もうかがえますが、多くの人が恐れるような大規模な雇用の置き換えは見られません。弊社の調査によれば、AIへのエクスポージャーが高い産業ほど、労働生産性の伸びが大きくなっています。その主因は、労働時間の減少ではなく、生産の伸びが速いことです。この違いは私にとって極めて重要です。現時点の証拠を見る限り、企業が人員を減らす以上に、労働者がより多くを生み出しているように見えます。さらに、物理的な制約もあります。AIの導入は、いま建設が進められているインフラに依存しており、今後もしばらくはそうした状況が続くでしょう。2025年から2028年にかけて見込まれるデータセンターおよび関連インフラの設備投資は3兆ドル以上に達しますが、これまでに投入されたのはそのうちおよそ 約4分の1にとどまります。先行きは依然として不透明です。その点は疑いようがありません。私の見立てでは、生産性の最大の押し上げ効果が得られるのは、まだこれから先である可能性が高く、一定の雇用喪失も避けられないでしょう。これまでのイノベーションの波は数十年単位で進みましたが、AIはそれよりもはるかに速く進んでおり、調整期間が圧縮されています。だからこそ、労働市場にとって中心的なリスクが生まれます。つまり、新しい雇用が生まれるよりも早いペースで、雇用が失われてしまうことです。そこで弊社の調査では、目先の影響だけでなく、その先まで視野を広げて見ようとしています。確かに、一部の仕事や作業は混乱の影響を受ける可能性が高いでしょう。しかし、生産性の向上は所得の増加も意味し得ます。資産の増加にもつながります。所得や資産が増えれば支出も増え、それが回り回って経済をより速く回すことになります。企業の内部でも、新しい作業や新しい役割が生まれ、職を失った労働者が別の仕事に移れる受け皿ができる可能性があります。仮に雇用の伸びがしばらく鈍り、その結果としてインフレには下押し圧力が、失業率には恐らく押し上げ圧力がかかるとしても、政策当局がただ傍観するだけだとは、私はあまり考えていません。中央銀行は、景気を刺激して完全雇用に近づけようとすることで対応できます。これは経済学で「一般均衡」と呼ばれる考え方です。方程式の片側だけを見ることはできません。システム全体として考える必要があります。そして、仮に金融政策の余地が尽きたとしても、財政政策の担い手が同様に出番を迎えることもあり得ます。失業給付のような自動安定化装置に加え、狙いを定めた政府の施策によって、経済を完全雇用へ押し戻す別の手段もあります。ですから、より大きなポイントはこうです。AIには、労働市場に一定の混乱をもたらす可能性が確かにあります。しかし同時に、経済には完全雇用へ引き戻すための仕組みや手段が、さまざまに備わっています。こうした緩衝材があることで、AIによって失業率が上昇するとしても、その上昇幅はおそらくより小さく、期間も短く、管理もしやすいものになるはずです。少なくとも今後数年間は、私が目にしてきた一部の初期分析が示唆するほど深刻にはならないと考えています。AIが労働市場にもたらす影響は、あらかじめ決まっているわけではありません。議論の焦点は、ほぼ間違いなく「スピード」に行き着きます。経済の適応能力と比べて、AIの導入はどれだけ速いのか。歴史が示すのは、最終的には生産性が勝つ、ということです。経済規模は拡大し、人々は雇用を維持します。一方で歴史は、恩恵が誰にでも等しく及ぶわけではないことも教えてくれます。そしてより重要なのは、すべての移行が滑らかに進むわけではない、という点です。では、それは何を意味するのでしょうか。手放しで楽観してよいのでしょうか。決してそうではありません。さしあたり、初期の証拠は安心材料ではありますが、物語はまだ書き進められている最中です。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。



