市場の風を読む
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Morgan Stanley
なぜ今、日本の産業基盤が重要なのか
6 minutes Posted May 20, 2026 at 4:30 am.
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防衛費の拡大や地政学リスクの高まり、AIによる電力需要の増加、そして長期の受注残が、トランスクリプト 日本の重工業をどう変えているのかを見ていきます。「Thoughts on the Market」へようこそ。モルガン・スタンレーMUFG証券で日本の重工業を担当しているアナリストの北浦岳志です。本日は、防衛、エネルギー、そしてAIが、日本の産業構造をどのように変えつつあるのかについてお話しします。本日は、東京時間で5月20日水曜日の午後1時です。防衛費というと、一般の方や多くの投資家にとっては、日常生活から少し遠い話に感じられるかもしれません。ただ実際には、安定した電力供給やエネルギー価格、サプライチェーンの強さ、そして世界が不確実になる中で政府がどう動くのか、といった、私たち一人ひとりに関わるテーマとつながっています。かつて日本の防衛産業は市場の片隅にある静かな存在でした。しかし現在では、国家安全保障、エネルギー安全保障、そして産業基盤を結びつける大きなストーリーの中心的な役割を担いつつあります。これは大きな構造変化です。日本は5年間で総額43.5兆円(約2,750億ドル)規模の防衛関連支出計画を進めています。2025年度までの最初の3年間で、その61%がすでに執行されており、残り2年間も安定した執行が見込まれます。仮に防衛費がGDP比約2%から3〜5%へ引き上げられれば、総支出は現在水準から約80〜200%増加する可能性があります。こうした数字が意味するものは何でしょうか。防衛支出とは、航空機、艦艇、ミサイル、ドローンだけを指すわけではありません。整備や補修、物流、技術開発、そしてサプライチェーンの強化も含まれます。つまり、これは「いざという時に対応できる産業体制」をどう作るか、という話です。現代の紛争が、その重要性を示しています。防衛専門家によると、イラン紛争では最初の100時間で約31億ドル相当の弾薬が消費されたと推計されています。軍は短期間で備蓄を使い切りますが、製造業者がそれを補充するには時間がかかります。今後は、多層的な防衛手段が必要になるでしょう。高度な脅威に対応するミサイル、柔軟性を持つドローン、低コスト迎撃が可能なレーザー、そして成熟が進む新技術。これらは、装備、エンジニアリング力、生産能力、そして信頼できるサプライヤーへの需要を生みます。政策面でも変化があります。日本では防衛装備品の移転に関する規制が緩和され、輸出の可能性が広がっています。また、2035年頃の配備を目指す次世代戦闘機開発のような長期サイクルのプログラムでは、国際協力の重要性も高まります。こうした複雑で長期にわたる産業プロジェクトでは、受注の可視性が極めて重要です。重工業のストーリーは、防衛だけではありません。もう一つの軸が電力であり、これはAIと直結しています。データセンターは膨大で安定的な電力を必要とし、その需要は拡大を続けています。短期的にはガスタービンがその需要を支えるでしょうが、長期的には原子力も重要な選択肢になります。日本では、2011年の東日本大震災と福島原発事故以前は原子力比率が20%を超えていましたが、2024年度には9.4%にとどまっています。政府は約20%への引き上げを目標としており、その実現には再稼働余地のある33基の多くが稼働する必要があります。防衛とエネルギーは別々のテーマに見えますが、産業の視点では同じボトルネックを共有しています。それは「生産能力」です。強い受注残は、不確実なマクロ環境下で投資家に一定の安心感を与えます。ただし、受注=すぐに売上、というわけではありません。企業は、工場、熟練エンジニア、サプライヤー、部品、そして時間を必要とします。だからこそ、生産能力とサプライチェーンの強靭性が投資判断の中核となります。もちろん、リスクも存在します。地政学リスクによる供給制約、レアアース規制による部品不足、エネルギー価格の変動、さらには防衛予算の一部がサイバー、インフラ、あるいは輸入システムに向かう可能性もあります。これらは、重工業が最も強みを持つ船舶、航空機、ミサイル、エンジン分野以外への支出です。それでも、全体のストーリーは明確です。日本の重工業は、かつての景気循環型の機械セクターから進化し、防衛即応力、AIによる電力需要、そしてエネルギー安全保障の中心に位置する存在になりつつあります。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。