
新聞紙、小箱、トマト、田植え歌、八百屋。上から読んでも下から読んでも同じ「回文」です。これらはほとんど単語なので、文とは言いがたいのですが、江戸時代には、いい初夢を見るために験担ぎの七福神の錦絵をかって枕の下に敷いて寝たそうです。そこには、
「なかきよの とおのねふりのみなめさめ なみのりふねの おとのよきかな」
と書かれていたと言います。
漢字交じりの文にすると「長き夜の十の眠りの皆目覚め波乗り船の音の良きかな」となります。日本で一番古い回分の歌は、慶安高貴の歌論書「奥義抄」にある
「むら草に くさのなはもし備はらば なぞしも花の 咲くに咲くらむ」
だと言われています。
1982年に泡坂妻夫が書いた『喜劇悲奇劇』は、ショーボートを舞台にしたミステリーです。ここには、回文がいたるところに隠されています。タイトルも回文です。「たんこぶ権太」や「森まりも」という登場人物や、章立ても1章が「豪雨後」18章「大敵が来ていた」という具合に回文になっています。書き出しの一文も「台風とうとう吹いた」だし、最後の一文も「わたしまたとっさに欺したわ」という仕掛けたっぷりのミステリーです。
村上春樹も2000年に『またたび浴びたタマ』という回文の本を出版しています。
「Madam, I’m Adam.」も英語回文です。「Abel was I ere I saw Elba.」は、スペルをそのまま逆に読むことができます。エルバ島を見る前は私は有能だった、という意味です。ナポレオンが晩年に過去を回想した文だというのです。ナポレオンならフランス語で書くでしょ、というオチもつきます。
中国にも古くから回文が存在します。
塩飛乱蝶舞、花落飄粉匳、匳粉飄落花、舞蝶乱飛塩
がそうです。西暦500年代前半の、梁の簡文帝(503-551)の「詠雪」という詩です。「塩が飛んで乱れる蝶が舞い、花が落ちておしろい箱にただよい、箱のおしろいは落花にただよい、舞う蝶が乱れて塩を飛ばす」
雪をたとえて詠ったものです。
こうしたことば遊びは世界中にあるのですね。
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Aug 8, 2023
14 min

夏の朝、早起きをしてハス池に行くと、ハスの開花が見られます。その時に「ぽん」という音がするというのです。残念ながら僕はまだ聞いたことがありません。
実はこのハスを表す漢字は、三つもあったのです。
一般的には、ハスは「蓮」と書きます。しかし「蓮」以外にもハスを表す漢字があります。その一つが「荷」です。通常、「荷」は「荷物」「出荷」などのことばとして「になう」「背負う」「肩にかつぐ」という意味として使っています。
しかし元々「荷(カ)」がハス全体を、「蓮(レン)」が実を、「藕(グウ)」が根を表したと言われています。僕たちがレンコンと言っている部分は「藕」だったのです。
「荷」は「何」の部分が「カ」という音を表しています。幾何学ということばもありますね。この「何」は「になう」という意味を持っていました。しかし次第に「何」が「如何(いかん)」、「何ぞや」などの形で、疑問などを表す役目を持つようになりました。
そのため、「何」と音などが通ずる「荷」が「になう」という意味を持つようになったのです。そのため「蓮」が植物のハスを代表する漢字になった、と言われています。
古代中国では、漢字の意味だけでなく、音が重要な役割を果たしていました。「豆」という漢字をジッと見ていると、空豆の形に見えてくるのですが、元々足の高い「高坏」という器の象形でした。高坏を表した「豆」の「トウ」という音が、植物の「マメ」の発音と同じだったので、次第に「高坏」から「マメ」を表す漢字になったのです。
「東」も「木に沿って日が昇る」姿を表したという俗説があります。しかし、麻袋のようなものの両端を縛った形の象形なのです。「東」の「トウ」という音が、方角の「ひがし」と同じだったので、次第に「東」が方角を表す漢字になったのです。
ハスが花開くときに「ぽん」という音をたてるのかどうか、調べてみたいと思います。
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Jul 31, 2023
11 min

今回は、クイズを5問出します。江川さんが、やらせなしに挑戦してくれました。簡単すぎたかなあ。皆さんはいかがでしょうか。
1)「困っているからと言って、すぐに手を貸すのはよくない。『情けは人のためならず』っていうだろ」。さあ、この場合の「情けは人のためならず」の使い方は、あっているでしょうか。
2)「恨みを果たす」「恨みを晴らす」どちらが正しいでしょうか。「果たす」と「晴らす」の違いを考えます。
3)「ほんのわずかな空き時間も無駄にしない」という意味の成句です。「寸暇を惜しんで練習に励んだ」「寸暇を惜しまず練習に励んだ」これは、どちらが正しいでしょうか。「惜しむ」の意味は、一つだけではありません。
4)「子犬が尻尾を振って○○を振りまく姿は何とも愛らしい」。ここに入るのは「愛想」「愛敬」のどっちでしょう。「愛想」と「愛敬」の違い、わかりますか?
5)「風邪を引いて一晩中、熱に○○されていた」。○○に入ることばは「うかされる」「うなされる」のどちらでしょう。「うかされる」って、どういうことでしょう。
6)おまけ・・・江川さんは、何問正解したたでしょうか。番組でお確かめください。
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Jul 24, 2023
13 min

送り仮名の付け方をしっかり説明するのは、本当に難しい。活用する語については「活用する部分(活用語尾)を送る」という原則はあります。
「書く」という五段動詞なら。未然・連用・終止・連体・仮定・命令の形で活用する語尾は、「か/こ・き/い・く・く・け・け」となります。つまり送り仮名は、ここから送るということです。
これは、上一段動詞の「生きる」でも同様で、「き・き・きる・きる・きれ・きろ/きよ」。下一段動詞の「越える」なら「え・え・える・える・えれ・えろ/えよ」となります。
ところが、例外があります。「語幹」が「し」で終わる形容詞「著しい」などは「し」から送るのです。「著い」ではありません。
「か」「やか」「らか」が、活用語尾の前にある場合は、その音節から送ります。「暖かだ」「穏やかだ」「柔らかだ」という具合です。
個別に決まった送り仮名も33語あります。「明らむ」「明るい」「脅(おど)かす」「脅(おびや)かす」などです。
さらに、許容があります。「表す」「現す」は「表わす」「現わす」でもいいのです。「行う」も「行なう」としてもいいことになっています。「行った」だと「おこなった」か「いった」かが、わかりづらいので、「おこなった」という場合は「行なった」とするという著者もいます。
ここに挙げたのは、送り仮名の一部です。全てを理解するのは、なかなか難しい。でも、実用ではほとんど困らない、という不思議な世界なのです。
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Jul 17, 2023
13 min

お魚料理を食べにいくと、「生き作り」「活き作り」「生け作り」「活け作り」おまけに「活き造り」「活け造り」なんていう様々な書き方の看板やメニューを見かけます。
日本語表記って、自由ですよねえ。
じつは常用漢字表では、「活」には「い(きる)」「い(ける)」という読みありません。「カツ」だけなのです。ですから「生き作り」「生け作り」と書くのが基本の表記となります。
次に「いきづくり」か「いけづくり」か、という問題です。
「花を生ける」「生け簀」「生け捕り」「生け垣」とは言いますが、「花を生きる」「生き簀」「生き捕り」「生き垣」とは言いません。
「生ける」には「生かしておく」という意味があるからです。
ところが「生ける」より「生きる」の方が馴染みがあるからなのか、なぜか「生き作り」だけは、「生け作り」と共存しているのです。
文科省もかつて『「異字同訓」の漢字の使い分け』で「生け作り」を載せていましたが、2014年の改定版『「異字同訓」の漢字の使い分け例』では、「生き作り」が多くなった状況を踏まえて、「生け作り」の用例を外しています。
これは、ことばの動きに対応したものと言える例です。
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Jul 10, 2023
11 min

今回は「すっ」について考えます。
「すっぽかす」とか「すっからかん」は、あたまに「すっ」が付いています。でも、この「すっ」に違いがあるんですが、わかりますか?
「すっぽかす」は「すっ」と「ぽかす」つまり「ほかす」が付いたもの。つまり「すっ」が接頭語なんです。ところが「すっからかん」は「すっ」をとると「からかん」となって、意味が通じないんです。これは、「すっからかん」で一つのことば。「すっ」と「からかん」で、分けられないんです。
接頭語の「すっ」が付いたことばは、他にも「すっとぼける」「すっ飛ぶ」「すっ裸」などがあります。この接頭語の「すっ」は「素」という漢字が当てられていて、程度を表したり強調したります。「まったく」とか「勢いよく」なんて意味を含んでいるんです。
接頭語ではないものには、ほかにも「すっぽ抜ける」「すってんころりん」なんてことばがあります。これも「ぽ抜ける」とか「てんころりん」では意味が通じないですもんね。
「すっぽ抜ける」は「すっぽり抜ける」、「すってんころり」は「すってん」と「ころり」がくっついたもので、「すってん」は、勢いよく転ぶさまを表す副詞です。
よくマスコミなどで「特ダネをすっぱ抜く」なんてことばを使います。これは「すっ+ぱぬく」ではなく「すっぱ+抜く」です。
では「すっぱ」ってなんでしょう。
「すっぱ」は、「素っ破」とか「透っ波」とか書いて、戦国時代に武家に仕えた間者、つまり忍者・スパイのことです。
つまり「すっぱ抜く」は、だれにも気づかれず秘密を暴くことを意味したことばなんですね。
それで素っ破には、盗人、こそ泥の意味もあるのです。
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Jul 3, 2023
9 min

「鼻血」「我慢強い」を仮名で書くと「はなぢ」「がまんづよい」です。
「ぢ」「づ」と書く理由は、鼻血は「鼻+血」、「我慢強い」は「我慢+強い」だからです。
では、「地震」「頭痛」はいかがですか?
「地震」じは「じしん」「頭痛」は「ずつう」です。これはどうして「じ」と「ず」なんでしょう。
えーっ!
これらは、もともと「ず」「づ」、「じ」「ぢ」の発音が違っていたんです。ところが、だんだん混同されて区別されなくなってきました。発音が変わらないので、現代仮名遣いでは原則として「ず」「じ」で表記することになったのです。
「じしん」「ずつう」は、先に「地」と「頭」がきています。この場合は、発音通りの「じ」「ず」で表記します。
ところが「ちぢむ(縮む)」「つづく(続く)」のように、「ち」「つ」が続いて後ろが濁る場合は、「ぢ」「づ」になります。
さらに、「はなぢ」「我慢づよい」などは、もともと「ち」「つ」で始まる音が他のことばについて濁ったものなので「ぢ」「づ」となります。
「他のことばについて」というところミソです。
これが原則です。
ところが原則があれば、そこから外れるものもあるのが世の常です。
「頷く」は、もともと「うな=項」が首の意味で、これに「突く」がついたものです。「うな+突く」なので、原則通りだと「うなづく」となりそうです。ところがこれは、そうした語源を意識することなく使っているという理由で「ず」と書くのです。
はあ・・・。
ややこしい、ややこしい。
あまり難しく考えない方がいいのかもしれません・・・ね。
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Jun 26, 2023
15 min

「熱帯夜」とか「熱風」とは言うのに、なぜ「夏は熱い」とは書かないんだろう。最近の暑さを思うと「熱い」の方が、ピッタリくる気がします。
「暑」という漢字には「炎熱のさま」とか「炎熱の気」とかいう意味があります。そしてもう一つ「気候のひどく熱する夏期」という意味があるのです。
つまり、「暑」は「夏」という季節を表している漢字と言えます。
「熱」にも「温度が高い」という意味があるのですが、必ずしも夏という季節を表すものではありません。心の動きなども表現することがあり「熱愛」「熱情」「熱血」などということばにも広がっています。「発熱」「微熱」は、体温が上がることを言います。
「あつい」には、他にも「厚」や「篤」という字もあります。「厚」はもののあつみを指したり、味わいが濃いという意味で使われたりします。「濃厚接触」ということばも、ここ数年よく使われました。親切なさまやを言うときには「厚意」ということばも使われます。
「真心を込める」「誠を尽くす」という心の有り様を「篤(あつ)い」と言います。「篤志(とくし)家」は、志の高い人、慈善事業に尽くす人を指します。
「あつい」には様々な意味があって、それに合わせた漢字が用意されているのも、面白いですね。
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Jun 19, 2023
14 min

最近は、パソコンを使って文章を書くので、左から横に書く「左横書き」が一般的です。ところが、かつての日本には、横書きという概念がなかったのです。
漢字や平仮名は、縦に流れる筆遣いです。草書や行書を書くときに、横書きにすると筆が自然に流れないからです。
でも、横長の額などには四字熟語のようなものが、右から横に書く「右横書き」で記されていることがあります。これはどうしたことでしょう。
実は、あれは縦書きなのです。
ええ!
1行1字で書かれた縦書きです。
なんと!
だから、右から左に書かれているのです。
今回は、こんなことをお話しします。我が娘は、縦書きを左から書いていました。これにも、彼女なりの理由があるのです・・・。
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Jun 13, 2023
11 min

Living fossilをどう訳しますか?
「生きている化石」それとも「生きた化石」。
「生きている」は現在形で、「生きた」は過去形です。
うーん、悩ましい。
どちらも間違ってはいないのです。
日本語の場合、「生きた」という過去形を使っても現在を表すことができるんです。
うーん、どういうこと?
たとえば、「風邪をひいた」「ニキビができた」って、普通の会話で使いますよね。これって、いまも風邪をひいているし、ニキビも治ってはいないでしょ。英語で言えば、現在完了形のような役目になっているんです。
僕たちは、日本語の文法より英語の文法の方が、実は詳しかったりするので、どうしても、英語の文法を日本語に当てはめて考えてしまうんです。すると、どうしても矛盾してしまいます。
だって、もともと違う文法体系なんですから・・・。
過去の話を過去形だけで書く必要もないのです。
うーん、どういうこと?
これについては、番組をお聴きください。
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Jun 5, 2023
11 min
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